教育の最大の目標は
知識ではなくて行動である。

スペンサー 「断片」


たまには臨床的なことでも書きますね★

今日は外来のTHAの患者さんを担当しました。

自分の担当ではなく後輩の先生の患者さんです。


その先生が普段どんなアプローチをしているか
知らないので


まずは患者さんとの対話から
T(セラピスト:わたしです)、P(患者さん、左のTHA)

(歩きながら)
T:あし(下肢)どうですか?
P:長いこと歩くと創(左大腿近位前外側)の周りが痛くなっちゃうのよ
T:歩きにくいです?
P:床ならいいけど、カーペットとかの上だと足が出しにくいのよ
T:あし重そうですもんねぇ
P:何で分かるの?
T:足首まで力入ってますからね。あし全体カチカチにして
P:そうなのよ、よく分かるね
(ベッドに座って下腿前面のシップを見せてくれる)
  だからいつもシップ張ってるの…
T:そりゃあ仕事ですから(笑)

この方はT字杖で30M程度歩行すると創部周囲の突っ張りが強くなってくる
歩く時は下肢全体が重く、硬いというイメージなんですね、
ざっくり言えば


その後ベッドに背臥位になってもらい
左右の下肢の挙上を行ってもらいました
左下肢の特徴は
・大腿外側の筋がまず最初に、過剰に緊張する
・下腿の筋が全体的に過剰に緊張する

という特徴がありました。
T:痛いっていってるとこ、すぐ力入っちゃいます?
P:???(あまり分からない様子…)
T:じゃあ右(健側)のあしって、左みたいに力入れて上げてます
(実際に右下肢を挙上してもらう)
P:右は力入れてないかな、自然、って感じ
T:ですよね、じゃあ左は?
P:重いです
T:重く感じるから、余分に力入っちゃうんですかねぇ
(少し左下肢の重さ・運動を介助して)
  じゃあもう一回上げてみて
P:あ、軽い
T:じゃあ今ぐらいの力で自分でやってみて下さい
P:さっきより軽い!
T:ですよね。手術したすぐ後ってあしすごく重かったですよね?
P:うん、持ち上がらなかった
T:多分、その時のあしの重さの感じで持ち上げてるんじゃないですかね
  今なら力ついてるはずなんで、いつも思ってる力の20%ぐらいで
  あし上がりますよ。じゃあもう一回上げてみて
P:大分楽に上がります
T:ですよね。力が足りない訳じゃないですよ。

この方の左下肢のイメージは重い、です。実際には重さは多分
変わらないか、萎縮していればやや軽いぐらいのはずです

でも重い、と感じています。
ope直後の頑張っても上がらなかった経験
大腿外側筋のspasmicな過剰筋収縮により
”すごく力を入れてるのに右下肢より上がらない”
という経験などが
この重さ、を作っている可能性があります。

そして重いのに大腿部が上手く挙上できないことで、
代償的に下腿の筋緊張を過度に高めて
何とか上げようとしているんじゃないか、
と仮説を立てました。

これまでは空間で下肢をどのように使うのか
を評価しました


では次に、支持面に対してどんなパターンで
下肢を使うのか、を評価しました。

背臥位のままうちは正座をして大腿部の上に患者さんの
左大腿部を載せてもらいました

T:じゃあぼくのあしを太ももでつぶしてきて下さい

骨盤・大腿部での伸展活動をみるテストです

この方は空間操作と同様、
大腿外側と下腿全体の過剰努力がみられます

一応うちの大腿部には圧はかかります

T:じゃあ自分のお尻が持ち上がるまで太ももで力を入れてみて
P:ん~~上がらないですね…

触診では内側ハムストや内転筋の緊張が全くといっていいほど
高まりません…

ということで太ももの内側、内転筋と内側ハムストを把持した状態で
T:ここに力入れてつぶせます?
P:あれ、全然力入らないです
T:そうですよね、じゃあ反対は?
(右でも同じことをやってもらう)
P:簡単にできますね…

これで初めて自分の身体、下肢の使い方が違うことに気づけました
では今度は左下肢の外側を把持して
T:こっちなら簡単につぶせますよね?
P:できます できます
T:創のある方に力入りやすそうですね

ということで内側を把持した状態で
その部分に自分で圧を加えながら大腿の伸展活動が
行えるようアプローチしていきました

できるようになってくると

「ここ(大腿内側部)は使わないようにしてたわ」

という発言が患者自身から出ました

①創の周り(大腿外側)をカチカチにすること
②太もも、は①の状態からより下肢全体を重く感じさせるために
 代償的に下腿部に力を入れること学習している

と考えられました


ここまでくればあとは
太もも全体(外側だけでなく内側も)を使うということ
をいかに学習し
それを立位・歩行といった荷重場面で使うか
ってことですね

大腿での伸展と圧覚との協調のアプローチを端坐位でも
行い、そうすることで創部周囲の軟部組織の柔軟性は
マッサージなどすることなく低下し、

P:力入れても痛くないんですね
T:痛いところ意識しすぎちゃうから余分な力が入って痛いんですよ
  そんな時は内側を思い出して下さい
  太もも(全体)に力を入れた方が痛くないですからね
P:今まで太ももに力いれないようにしてたから無理がかかってたんだね
T:そうそう、痛いの好きな人いないからみんな最初はそんなもんですよ


なんて話しをしながら
今痛いのは自分の力の入れ方が悪いこと
痛い時には内側を使うことで痛みがなくなること
を患者さん自身に実感してもらいました

(これが大事です。痛い時の対処法を教えないと患者さんは痛いのを我慢するしかなくなります。口で言うのは簡単ですが、患者さんがそれを理解するためには実感し、それを自分自身で再現できるようにすること、つまりは運動学習ですよね)

大腿の内側にも力を入れることが分かったので
次は立位で自分でも確認してもらったら
この方はすぐできました
P:本当に痛くないです!(超笑顔、ちなみにここからはずっと笑顔でした★)

T:すばらしい!センスいいですね~
  じゃあゆっくりでもいいから歩いてみましょうか


もちろん、50M歩いても痛みはなかったです
P:本当に痛くないんですね~
T:創は治ってますからね。あとは来週まで覚えてて下さいませ(笑)

この後もう一回50M程度歩行してもらっている途中に、

P:これなら杖なくても歩けそうよ
T:じゃあ、杖浮かしてもいいですよ、我慢はしないで下さい

この方は杖がなくても
そのまますごく上手く歩きました

T:素晴らしい!しばらくしたら杖いらなくなりそうですね
P:本当だね。良かった★


とこんな感じです。

この方はすごく変化を感じやすい方だったので
そして言葉のかけ方ですごく意識の変化のある人なので
一度の治療でここまでいけました

これが来週までどのくらい持続できるのか
うちがこの人に対して
自分の身体の変化に感動させることができたのか
はまた来週分かることでしょう…


どの筋が働いてる?なんてことも大事ですが
それだけではないですよね

ある意味大雑把に
この人の心理的な
自分の下肢をどう感じているか
というボディイメージを考えていくことも非常に大切です


運動器疾患でもボディイメージは崩れます
痛みを経験していれば

痛いあし、踏ん張れないあし

という認識がベースになってしまいます

どうしたら反対の下肢と同じようになるのか

を考える必要があります



筋収縮や筋緊張はあくまで
脳の情報処理の結果です
痛いイメージがあれば
過剰に緊張も高まりやすいはずです

マッサージをすれば
一時的にはもちろん痛みは軽減します

でもイメージを変えられないと
また痛みが出てきます


動作分析や客観的な評価から

その患者さんが

どのように
自分の身体を
感じ
イメージしていて
動かそうとしているのか

を考えないと
根本的な運動パターンは変化しません

一時的に変わっても戻ってしまいます


だから感覚や認知は大切なんです