発見の最大の障害は無知ではない。
知っていると思い違いすることである。

       ダニエル・J・ブアスティン(歴史家)



昨日は5月勉強会の会場の予約を取りに行きました。

そして病院での勉強会をやりました。
前にブログで書いた
「整形と脳」について…

なんでope後には筋の出力低下や代償運動が生じるのか、
そして
受傷・ope後の患者さんの心理状態とはどんなもので
それらに対して自分たちセラピストは
どのように関わったら良いのか

なんて話しをしました。

うちの病院セラピストの20人くらいが参加してくれました。
若い先生~ベテランの先生まで。

患者さんの立場に立って考えてみる
なんてことの大切さに気づいてもらえれば幸いです。


そんなことを話して
今日はあるTKA患者さんのROMについて
こんな出来事があったので
書こうと思います。

この患者さんは
自分と昨年の夏の勉強会で
ニードについて話して頂いたG先生(OT)
と担当している患者さんです。

今週から新人のAさんが免許きたということで
G先生の代わりに昨日からOTを担当しています。

その患者さんから自分のリハの時に
「昨日のあの先生(Aさん)は痛いねぇ」
「先生(自分)ともう一人の男の先生(G先生)は痛くないし
リハビリした後も楽でいいんだけど」
といわれました。

まだTKA後数日でやっと昨日ガーゼoffになったぐらいで
膝の屈曲角度も昨日はmax85°でした。

それを記載してその記録を見てから
リハに行ったAさんは85°は曲がる、
という前提でリハに行きました

夕方Aさんに、あの患者さんどうだった?
と聞くと、
「先生のリハ記録を見て、頑張ったんですけどそんなに曲がりませんでした」

と言ってました。


そして今日、
自分のリハの時に、先ほどの患者さんからの発言です。
頑張った=力づくで曲げにいった?!
のかなぁなんて思いながら…
その患者さんの愚痴を聞いてました。


その患者さんは痛みに非常に過剰な反応を示します。
車いすでリハ室に向かう時も
患側の下肢が壁などに近付くと
すぐさま身体をねじってその膝が当たらないようにします。

創部をいきなり触ろうもんなら「いたっ!!」と言われます
実際「優しく触るね~」なんて言ったら
「あら、痛くないんだね」
なんて感じなので、実際の痛みは減っているんですが…

痛い、というのが予測的にイメージされているのだろうと思います。


この方の膝の制限にはもちろん創部の硬さや
まだ残っている腫脹も影響していると思われます。

でもそれ以上に
痛みに対する過剰な反応から
膝を動かされないようにしていると思います。

ということで
今日の自分のリハでは創部には全く触れず、
端坐位で足底をついて
下肢の重さを取り除いた状態で
(本人の痛みのない膝屈曲角度、最初は70°くらい)
膝周囲の筋・皮膚を徒手的に緩ませたり、ゆっくり戻したりしました。

自分の中の仮説では
膝が動く際の筋や皮膚といった軟部組織の動きを入れ
実際の膝の運動の際の準備状態を作るって感じですね。

「痛かったら教えてね~」
「痛いのはこっち(自分)のやり方が悪いから
 我慢しないで教えてね」
「我慢しても良くならないですよ~」
「痛くなくても曲がる方が良いに決まってるじゃないですか」

なんて言いながら
患者さん自身の抱いている?
痛いのを我慢する日本人の美学、
なんてリハには逆効果、であることを間接的に伝えながら(笑)

こんな方、多いと思います。
特に高齢の女性の方は。

夫は仕事、妻が家庭を守るもの
夫は家事なんて手伝わないのが当たり前
だから妻はいくら体調が悪かろうが
身体のどこかが痛かろうが
家事は毎日こなさなければいけない…

そんな中で痛みに対する免疫がついている
方が多くいるように思います。


でも痛みはリハには敵です。
無意識に防御反応が働きます。
リハは痛いものだと、思ってしまいます。
そうすればさらに防御反応が強まります。
そうすればさらに筋は伸張された時に
痛みを出しやすくなります。
さらに防御反応が…

なんてことになってしまいます。

このメンタルの
悪循環を断つことも
セラピストの役割だと自分は思います。



ということで話しを戻しますが、
この患者さんに先ほどの軟部組織の動きだけ出して
「じゃあ自分で痛くない範囲で曲げてみて下さい」
というと
90°まで勝手に曲げれました
「あら、痛くない」と患者さん。

TKAのope直後なのに関節構成体などの問題で
制限が起きているはずはないですよね。

じゃあ何が
制限しているのか
を考えなおすことも大切だと思います。


今日自分のリハの後、
そのAさんが今日もリハに行くとのことだったので、
このブログに書いてあるようなことを伝えました

この患者さんはこっち(セラピスト)が頑張っても曲がらないですよ、

「膝を動かしても痛くない」
と思わせられれば勝手に曲がるはずですよ

多分可動域制限を生んでいる今の主たる問題は
痛い、という思い込みと
それに対する過剰な反応じゃないか、と

伝えました。


そのAさんも昨日の自分の勉強会に参加してくれていたので
その言葉の意味も(多分)何となくは理解し、
色々自分なりに昨日考えてくれていたようです。

そして今日のOT場面では
治療の開始の時に
「今日は優しくやりますね」
と言っていました★

そしたら
初めから
85~90°程度曲がっていました。
(このわずかな差は昨日のAさんに対する不安感があるのかもしれません…)

優しくやりますね
という言葉だけでも
患者さんの防御反応を軽減することができる。

言葉って大事だと思います。