我々は、
 いつも、過ちを犯してしまいます。
 「結果」にすぎないものを、
 「目的」にしてしまう。



フェイスブックを通じて、とある先生とディスカッションをすることができ、臨床に対する思いをまた見直すことができました!

そのやり取りを今回はご紹介します。



◯◯法・運動療法という様々なアプローチのスタイル。

その1つの研修会に出て
インストラクターのデモの素晴らしさを目の前で見る。
毎日の努力の「結果」

でも若い頃の自分は
◯◯法は素晴らしいんだ!じゃあこれを勉強しよう!…
◯◯法を勉強することが「目的」になってしまっていた。


多分、そのインストラクター、というか素晴らしいセラピストは
その治療法を使わないとしても素晴らしいセラピストであると思う。

様々な臨床での悩みやその解決の中で
1つの方法にたどり着いただけ。

そこには沢山の失敗や修正、成功といった経験に裏付けられている。

そこをすっ飛ばして、
1つの治療法だけを突き詰めようとしても限界がある。


他を知らないから。


他を知っているからこそ
自分の治療スタイルの強みも弱みも知っているんだと思います。


1つの方法だけを素晴らしいと盲信してしまえば、
他のより良い可能性を知らないままセラピスト人生が終わってしまうかもしれない。


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以下、コメントでのやり取り…

H先生:
その通りだと思います。
でも、一つの治療法に盲目的に取り組む時期があり、その経験が次に生きる、
そのためには必要なことではないかとも思いますが、いかがでしょうか?


管理人:
コメントありがとうございます。おっしゃる通りだと思います。自分もそんな時期がありました。だからこそ言えるかもしれません。
 盲目的に突き進んでこそ、分かる、気づくこともあると思います。
話だけ聞いて、理解したつもりになっても、いざやっていると色んな発見もありますよね。
やらずに知ったかぶりをするより、やってみてこそのその治療法の意義や問題点を実感すること、その経験が活きると思います。

先輩があの治療法は…と言っていることを鵜呑みにして何も行動しないよりは、まずは興味があれば勉強してみたらいいじゃん、と僕は思っていますし後輩にも言っています。

自分の臨床は常に未完成であることを自覚すること、が大切だと思っています。


H先生:
私もそう思います。
テクニックは、その人が臨床で積み上げてきたものの中から、一番打率のいいものを抽出したもので、その思考過程を経ずに行なってもいい結果がでない→行わなくなる→批判する…という人が多いように思います。

どのテクニックにしても、『これを行えばすべてが良くなる!』というものはまだないですし、そう言う講師もいないと思われます。

でも、どのテクニックの講師も、そのテクニックだけで一定以上の効果は出しちゃうからすごいですよね。
なかには『今日は〇〇の講習だから言わないけど、臨床ではこれのほうが…』という講師もいらっしゃるので、その背景の大きさに毎回圧倒されます。
長文失礼しました。


管理人:
まさにそうです!!素晴らしい先生は自分の技術の使いドコロを熟知しています。
他のテクニックが有効であればそのテクニックを臨床では使うはずです。

臨床の方向性は技術の向上ではなく、患者さんの改善のはずです。

そのための色々な試行錯誤がその方の素晴らしさを作り上げているはずで、
技術はその結果でしかないと思います。

技術を真似るのではなく、その方の努力を見習うべきですね。

こちらこそご意見を頂きましてありがとうございます。今後共よろしくお願いします。



Nくん(学生):
EBPTについてもそうですよね。エビデンスに基づいているから良いのではなくって、効果があって初めて良い。
沢山のエビデンスを知ることが大事であり、一つ一つ盲信しながら深めていくことも大事なのですね!

エビデンスがあるからといっていろいろ試したくなるのですが、効果判定に心掛けられるようにしていきたいです!
いつも勉強になります!



K先生:
初コメント失礼します。岐阜県で働いている作業療法士です。

今まさしく、大学院で神経リハビリテーション分野の方法論による信念の対立や、その背景を研究しています。

非常に核心的なご意見だと思います。
ただ、信望している人ほど、無意識に「手段」が「目的」にすり代わってしまうんだと思います。唐突なコメントお許し下さいm(_ _)m
勉強になるblogありがとうございます。


管理人:
Nくん、そうです!例えば治療に対するエビデンスはより多くの方への効果が認められる可能性が高いものですね。ある疾患や問題を抱えた方に対して一定の効果があげられると統計学的に効果が認められるもの、と自分は思っています。
でもそこにはポジティブな効果のある人とネガティブな効果のある人が相殺され、結果的に(平均値)としてはポジティブな結果が得られるもの、とも言えるかもしれません(ものすごい間違ったことを言っていたら誰かつっこんで下さい)

現実の臨床における患者さんの現象は病態(実際の病気などの影響によるもの)と患者自身の個性、

が混在したものだと思います。

研究ではより多く、そして有効なデータを示すためには患者の個別性をできるだけ排除しないといけないはずです。多くの要素が入ってしまえば、介入前後の変化の要因が曖昧になってしまうからです。

でも臨床では病態、エビデンスも大事にしながらも、その方の個性をより活かすことが大切だと思います。



管理人:
K先生、そうなんですよね…他の視野を、他の理論を…といってもそのまっただ中にいる時にはそれに気付けないんですよね…。

でも本人はそれを一生懸命やっている。そんな後輩やセラピストがいた場合に、どう教育したらいいか悩む場合もあります。本人は一生懸命やっていますし、何も考えていないセラピストに比べたらそれは素晴らしいことだと思いますし…。結局は自分のやっている臨床をしっかりと見せることしかできない…というのが自分の現状です。

先生の研究はもう発表されているのでしょうか?是非その信念の対立、その背景について先生のお考えを教えて頂き、勉強させて頂きたいです!



K先生:
先生に興味を持って頂けるのは大変光栄です、ありがとうございます。
先生のおっしゃる通り、僕も何も勉強しないで、行き当たりばったりの訓練をするようなセラピストより、方法論を勉強しているセラピストは治療の手段と目的がはっきりしやすいと思いますし、当然そちらの方がいんだと思います。

もし、よろしければ7月27日のアスリンの懇親会にお邪魔する予定ですので、お話を聞いて下さいm(_ _)m宜しくお願い申し上げます。


H先生:
EBSMという表現を嫌う人も多いのも事実だと思います。
でも、色々な治療手技(特にMobilization)などはエビデンスに基づいています。
脊柱の動く範囲を知らずに、脊柱の治療をすることはできませんから。
しかし、徒手療法のエビデンスはほとんど確立されていません。
確立されていたとしても、それは患者満足度やVAS、臨床評価のように様々なバイアスの入り込む余地のあるものが大半です。
では、治療効果がないのか?
そんなことはないと思います。
研究はサイエンスですが、臨床はアートです。
仰るとおり、臨床研究では技術によるバイアス、被験者バイアスなどを排除しなければなりません。
では、エビデンスがない治療には根拠が無いのか?
そんなことはないと思いますし、効果はあります。
基礎研究の上に成り立っている治療方法の必要性を訴える先生が増えてきているのも事実です。
一概に統計的有意差があるからいい、ないから悪い、とするのではなく、どこまで一般化できるのか、なぜ有意差がでないのか、まで踏み込んで読む必要性口酸っぱく教わっています。
エビデンスなんか意味が無い、と仰る先生方に、解剖学や生理学はエビエンスではないのですか?と聞いてみたくなります。
何を効果判定に使うのか、客観的事実なのか主観的事実なのかも大事ですよね。
熱い議論ついでにお邪魔しました。


管理人:
K先生、私なんかでよろしければ…私 光栄と言われるほど本当に何もしてませんので…気が引けます(笑)先生の方がよほど頑張られているかと思います。

自分は今シングルケースデザインの勉強をしています。応用行動分析を中心に少し今後、自分の臨床展開を目に見える形に研究していきたいと考えています。

今後共よろしくお願い申しあげます。ASRINの懇親会では多分プレッシャーでぐったりしていますので(笑)お声かけ下さい!



管理人:
H先生、本当に勉強になります。様々な治療法、◯◯法などはエビデンスがない!という話を聞きますが、実際にデモなどを見ると、それは素晴らしい患者さんの変化を目の当たりにします。

そのすごい変化は、先生の言われるようにバイアスで排除されてしまうものが多くあり、またそのアプローチでそのセラピストがその時に何を感じ、何をしているのか、目に見えない、そして言葉では上手く表現できない微細な変化を感じ取り、また患者さんにその変化を生み出している、はずだと思います。

専門職であるが故に、科学性や根拠を求めることは大切だと思います。明らかに悪い影響を与えると分かっていることを行うのは倫理上問題があります。

エビデンスがあるから良い、ないから悪いのではないと思います。

そうではなくて臨床において良いと思うことでエビデンスがなければ、新しいエビデンスを作るべく、努力をすべきだと思います。自分は上にコメントしましたようにシングルケースからコツコツやります。

多くの方に有効な手段を見つけるのも大事ですが、自分には目の前の方に向き合う中でより良いものを見つけ、それを形にしていく。方が性にあっていそうなので。

色々とアドバイスを頂き本当にありがとうございます。


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この先生方は自分よりも年上で、素晴らしい経歴をお持ちの先生です。

そしてNさんは学生です。自分は学生時代エビデンスなんて言葉くらいしか知りませんでした…本当に素晴らしい学生です。


色んなセラピストの方と関わりますが、やはりすごいセラピストの方は皆さん謙虚ですね。
見習わないといけません(笑)

そしてそのような方でもやはり真摯に臨床を考えている姿に感銘を覚えるとともに、まだまだやらないといけない!と思わせて頂きました。