いよいよ、第6回となりました。

明確なニードがない方に僕らは何ができるのか?


この回をもってこのテーマは一度締め(しめ)ようかと思っています。


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ということで、
この方の
昨日3回目の訪問に伺いました。


昨日のやりとりは…


「(先週の訪問から)1週間経ちましたけど、何かお変わりありました?」

Aさん

「奥さんの肩もんでて、テレビ見ながらやってると、途中で”弱くなったよ−”って言われるんです」




「…途中で弱くなる、ってことは意外に、(奥様が肩をもまれるチカラが)左右差気にならなくなってるんですかね?最初は。」


Aさん

「そうだね!!!最初は右手を意識して肩もんでるんです。その時は言われなくなったな。ただ途中でテレビに気がそれると、よく”弱くなる”って言われる!」


素晴らしい変化じゃないですか?

2年間変わらなかった部分が、たったの三週間で!

もちろん、まだ完全ではないですよね。

Aさんの発言にあるように、

”気がそれると、右手の力が抜ける”んです。

ここには注意配分の問題が影響します。

いわゆるダブルタスクってやつです(かっこ良く言うと)。

実際に虫様筋握りや、手背屈に抵抗を加えると、

「今からいきますよ」
「右手だけいきますよ」

と心の準備をして、右手だけに注意を向けていれば、
筋発揮の左右差はかなりなくなってきました。

でも
左右同時に抵抗をかけたり、
右手だけでも抵抗をかけながら足し算をしてもらったりすると、
途端に右手の力が抜けます。

本人も自覚があります。

来月からはこんな部分もやっていきましょう、

そして、
「テレビを見ながらでも、奥様と話をしながらでも、奥様が肩もみを気持ち良いと思ってもらえるようになりましょう」

これが来月の目標です。


ちなみに昨日の会話の中で、

「最近、家の鍵を開けたり、駅の定期を”ピッ”てやるのも、右手を使ってるんです。まだ少し違和感はあるけど」

「病気をする前は、右手でやってたんだけど、(脳卒中になってから)いつの間にか左手でやってたんだな、って気づいたんです。自然とやりやすい方でやってしまってたんですね」

と言われました。

多くの患者さんもそうだと思います。

わざと麻痺側を使っていない訳ではないんだと思います。

使えない、使いにくい状況があり、その中で試行錯誤した中でできたのが、今の姿なんだと思います。


ただ、まだまだご本人には潜在的な能力を持っていたとしても、
それに気づけるチャンスがなければ、

本人は今の状況が自分の能力だと感じてしまっています。


その潜在能力に気づくチャンスを作るのもセラピストの役割ではないでしょうか?



明確なニードがない方に何ができるのか?

急な発症で現実を受け入れられない急性期、

今後の見通しが立たない、改善のゴールが見えない回復期、

何らかの後遺症を抱えた中、ある段階での動きにくさを受け入れながらも、まだ改善することに期待を持ち、その中で毎日の生活を送る生活期、

ニードは常に変化し続けます。

昨日聞いたニードは、

今日違うものに変わっていることもあります。


患者さん・利用者さん自身も
何ができるのか、
どこまでできるのか、
それは達成できるのか、
無理そうなのか、

でもやっぱりやりたい…

といった思いが交錯します。

セラピストもはっきり改善します!!とは言い切れないのが脳卒中の難しさでもあります。


Aさんも初めは自分のニードを上手く表現できませんでした。

生活は自立、復職や車の運転もできる。
できないことはない。

でも違和感はある。


そして会話の中で、

奥様とのやりとりの中で
自分の右手が上手く使えていないことを実感する。

それに気づく。

右手の使いにくさが、毎日の肩もみを通じて
毎日仕事をしてくれている奥様への感謝の気持ちに十分答えられていない、という歯がゆさ。


そこがこの方の右手をもっと良くしたい、ということなのかもしれません。


ただ、これもあくまで僕がAさんとのやりとりの中で感じたことです。
真のニードは全然、別の所にあるのかもしれません。


訪問でもリハビリをしたい、でもニードがはっきりしない。

でもリハビリをしたい、という思いには何か本人の中で引っかかっている、
上手く言葉に表せない部分があるはず。

良くしたい目的や思いがあるはず。

そんな潜在的、内在的な部分を見つけ出し、
ご本人が気づくこと、そこに導けることが、
セラピストの役割の1つですし、

リハビリの始まりだと僕は思っています。


実際僕は直接的な介入はほぼしていません…

触ったのは評価くらいです。

本人の使いにくい原因に気づける課題を提示し、
あとは自分でやってみてくださいねー、とお伝えしただけです。


変わることに大切なのは、
セラピストが触ることではなく、

患者さん利用者さん自身が
自分のニードの達成を阻害している
問題に気づき、
その解決方法を身につける、

ということだと思います★



最後までお読みいただき、ありがとうございました!!